「生徒自身の将来のためにもなるわけですからなんら問題はないでしょう?」

「でもそれを南条は望んでません!」

「では南条はどうしたいんですか?」

そう言ってから村田先生は南条の方へ視線を向ける。



「それは…」

南条が俯いて口籠る。

華奢な肩を更に縮こませた様から彼女の緊張が伝わってくる。



無理しなくていいよ、南条。

お前が夢を見つけるまで俺が守るから─



村田先生の傍らに立ち竦む南条にそう伝えたくて、彼女のきゅっと握り締められた手に自分の手を伸ばそうとした時、



「…私」




南条が呟いた。



伸ばしかけた手を止める。



「私…




東京の大学に行きます。

東京の外国語大学の英語学科で言語の変遷について研究します!」



「!」






『ねぇ、先生。

その研究の話、聞かせて?』



夏休みの英語準備室で、夜になるまで研究の話をして過ごしたあの日が頭を過る。



俺の隣で星が瞬くような瞳で見つめてくる南条が、今も鮮やかに蘇る。

若々しく穢れのない輝き。

希望に満ちて真っ直ぐな瞳。