不意に

「せんせ…」

南条のか細い声が聞こえた。

はっとして顔を上げると、南条が村田先生に腕を捕られて出入口に向かっているのが見えた。



ドキン、と胸が大きく鼓動する。




出来ることなら駆け寄って奪い取りたい─



でも分かっている。

そんなこと出来る権利は俺にはないことを。

僅かに残っている自分の中の冷静な部分がその衝動から耐えさせるけれど、それでもふと気を抜いたら何をしてしまうか分からないほど気持ちが昂っていた。

拳を握り締め、唇を噛んで俯く。

こんなに君を渇望しているのに、叶うことはないのか─



二人が職員室を出ると、カタンと音がしてドアが閉まった。



『俺に立ち会わせて?

南条が自分の大切なものを見付ける瞬間を。』



『南条のために力になりたい。俺に協力させてくれる?』



南条…

南条、南条!



この時俺は初めて自覚するんだ。

あぁ、俺は今、君を

愛している─



それは師弟愛なのか兄妹愛なのか、はたまた何か別の物なのかは分からない。



けど、何にせよこの想いは確かに君への『愛』なんだろう。



気付くと俺は席を立って職員室を飛び出していた。