「はいじゃあ今日の授業はここまで。
インフルエンザが流行ってるから気を付けてね。」
夕刻の塾で、授業が終わり講師の先生が教室を出ていくと、
「ユウトぉ!」
と、直ぐに清瀬くんの友達が教室に彼を迎えに来る。
「おぅ。ちょっと待ってて。」
清瀬くんが応える声がすると、後ろから頭をぽんとされた。
「じゃな舞奈、またな。」
「あ、うん。またね。」
先週は清瀬くんと顔を合わせるのに緊張したけど、今日はもうそんなことはない。
とは言え、彼の優しさに甘えて傷付けてしまったはずであることにどうしても負い目は感じてしまう。
勿論、清瀬くんの方には傷付いている風な様子は少しも見えないけれど。
「ん?」
ドアの方へと視線を向け掛けた清瀬くんが私の方を二度見する。
「お前まだ『くま』バッグに付けてんだ?」
「あ…これ。」
清瀬くんにゲーセンで貰ったくまちゃんが私のスクバからこっちを見ている。
バッグから外すには忍びなくて、今も毎日一緒に登校しているくまちゃん。
「もしかして俺にまだ未練あんのー?」
「違うもん!くまちゃんには罪はないから付けてんだもん。」
「俺を罪人みたいに言うな!」
清瀬くんがくまちゃんをぱちんとデコピンする。
「もー!やめてよー!」
「あはは。んじゃなー。」
清瀬くんが教室を出ていった。