「分かった。
でもあんなのお前の想い出には出来ないから…
やり直ししよう。」
そう言って先生はシートからぐっと身体を起こし、空いた右の手で私の左肩を引き寄せた。
「やり直しのファーストキスが約束のキス。いいね?」
「…うん。」
私の頬に当てられた掌が幽かに震える。
肩を掴む手に力が込められた。
「南条を不安にしないし、俺も不安に思わない。
約束。」
「うん…」
先生が私に覆い被さるように顔を近付け、私はそっと眼を閉じる。
眼を閉じる直前、先生の肩越しにフロントガラスから見えた窓の外には、雨から変わったばかりの白い雪がふわりと舞うのが見えた。
(ホワイトクリスマスだ…)
暖かく柔らかに触れる感覚。
幽かなチョコレートの香り。
(先生…)
先生の背中に左の手を回す。
優しく触れ合った唇に熱が籠る。
(先生…好き…
ずっとずっと、永遠に…
このキスと指環に誓って─)
降り出したばかりの柔らかな雪が見守る中次第に深くなる口付けに、私の瞳からは幸せの涙がひとしずく、頬を伝った。
* * *