それから私たちはチョコレートを食べたりお喋りしたりして兄の返信を待った。

掛けっぱなしにしてたラジオからは、もう何度目かの往年の歌姫のクリスマスソング。

『私が欲しいクリスマスプレゼントはただひとつ、貴方だけ。』

そんな歌詞が今の私の気持ちを盛り立てる。



「寒くないか?」



時計の針が11時を回って久しくなった頃、霧雨の降る窓の外を見ながら先生が言った。



「うん、マフラーあるし。」



私の応えに先生は頷く。

そしてこちらに手を伸ばし、私の肩のマフラーに触れた。



「良く似合ってる。」

「ありがとう。」

「こちらこそ、使ってくれてありがとう。

……


ね、南条?」

「ん?」

「昼間ここで俺お前のことナンパしたろ?」

「ん?あぁ…」



『お嬢さん、ひとり?だったら俺とデートしない?』

って声掛けられたっけ?



「他のヤツがそういうこと言っても…付いてくなよ?」

「え?」



暗い車内では先生がどんな表情をしているのかはっきり分からない。

でも、先生が心配してくれてること、私を大切に想ってくれてることが分かる。



「行くわけないよ。」



だって私は先生が良いんだもん。先生しか駄目なんだもん。

私はちょっと笑って応えた。