その後、約束の10時を過ぎても兄からの返信はおろか、既読もなかった。

「もー!何やってんのかな、あの人は。」



兄が来なければその分先生と一緒に居られるのは嬉しい。

けど…



(晩ごはん、あんまり食べられなかったからおなか空いちゃったんだよね…)



これはもう帰り道コンビニで兄にあんまんを奢ってもらわねば。



「どうした?」



ふと黙り込んだ私に先生が問う。



「うぅん、なんでも。」

「分かった。

おなか空いたでしょ?」

「えっ!」



言い当てられてどきりとする。



「南条夕食あんまり食べてなかったからな。」



そう言って先生は後部座席に手を伸ばしてコートを取り、ポケットから小箱を取り出した。



「食べる?」



それは私のあげたチョコレート。



「駄目だよ!」

「どうして?一緒に食べようよ。」

「だってそれは先生にあげたんだもん!」

「でも南条?

チョコレートは食べればなくなるし、飾ってても溶けてしまう。

けど一緒に食べた想い出は?

ここに残るでしょ?」


先生は親指で自分の胸を指す。


「俺は南条と食べたいんだけど、南条はどうかなぁ?」



(先生…)



何でもないやり取りだと思うのに、こんな何でもない言葉で

(先生、好き…)

と身体中で思う。

先生は優しくて、私を飛びっきり大切に想ってくれて…



ホントは今にも『大好き!』と叫びたいのをぐっと飲み込み、代わりに言う。



「うん!私も食べたい!」