激しい暑さも次第に和らいできた9月の半ば過ぎ。

職員室で仕事をしていると、時々南条が村田先生を訪ねて来るのを眼にするようになった。



あの夏休みの件で南条の進路指導から外されて以来、俺は未だ南条に声を掛けることはおろか、眼も合わせられずにいた。



『南条の夢を一緒に探す』


そう豪語したにもかかわらず、指導からあっさり手を退き、しかも英語準備室に逢いに来た南条を真っ向拒否してしまった。


弱くて情けない本当の俺を知ったら軽蔑されるんじゃないかと思うと怖かった。





ある放課後の、窓に夕暮れのオレンジ色が映る頃。




職員室でテストの採点をしていると、ふと正面から人の気配と視線を感じた。

顔を上げると

それは南条だった。



南条は少し離れたドアの所に立ってこちらを見ていた。



(あ…)



久しぶりに眼が合った。

漆黒の瞳に胸が高鳴る。




けれど。

その無垢な瞳が俺を許さないんじゃないか─

同時にそんな不安も黒雲のように胸に押し寄せる。




俺はそれ以上眼を合わせていることが出来ず、再びデスクの上に視線を下ろした。