生徒たちが俺と南条との夏休みの一件を噂しているのは知っていた。

しかもその大半は事実ではなく、中には南条を貶める者もあった。



が、俺は抗議のひとつもしようと思わなかったわけではなかったが、あえて聞こえないふりをしていた。



俺が口を出すことで噂が炎上するかもしれない。

言わないことが南条のためなんだ、と言い訳をして…




にも関わらず俺のそんな胸の内も知らず南条は俺を信頼していたんだ。



ましてや俺が自己満足のために南条を利用していたことなんて全く疑いもせず。



(南条…)



きゅっと胸が痛む。



きっと俺とのことで落合に吹っ掛けられたんだろう。

そんな状況でも俺を信じて庇って啖呵を切った彼女。



なのに俺は彼女のために何も出来ないのか?何もしないのか?



始業のチャイムが鳴り、それを合図にするように俺は南条の方へ一歩踏み出した。




が、ちょうどその時、

「おい、教室に入れ!」

階段を上がってきた他のクラスの先生達が廊下に姿を現し、生徒達に声を張り上げた。

生徒達は三々五々引き揚げていき、南条も神川に手を引かれて理科室に姿を消した。