村田先生の足音が遠ざかる。



いつしか窓の外は暮れ、廊下は静けさに満たされていた。

外から忍び込む木々の枝葉が風に揺すられる音に、幽かに南条の息遣いが重なって聞こえるほどに。



「ごめん、南条。」

静寂の中に俺の声が響く。



「先生…」



「もう…離さないから。」



「先生…!!」




南条の両手を取り、小さく震えるそれをしっかりと握り締める。



(ごめん…弱い俺で。



でももう、逃げないから!

南条の傍で一緒に夢を叶えられる強い俺でいるから!)



彼女の無垢な瞳に誓うようにしっかりと見つめる。

熱い光を帯びた、漆黒の瞳。




静けさにこの地球上にふたりきりになってしまったような錯覚を起こし、時を忘れて瞳を見交わす。



南条…ありがとう…

俺の傍に帰ってきてくれて…

もう離さない。



君を、

愛してる…



君は俺の希望。

君は俺の一条の光。





窓の外には秋の始めのひやりとした風が舞う。

でも俺たちは今、間違いなくさっきまでより温かな光に照らされている。




あの秋の夜半、俺は確かに君への愛を心に刻んだんだ─

     *  *  *