もう分かんないよ。

私はどうしたらいいの?

どうすれば――――


「ミサ。」


ようやく言葉を発した彼。

彼は私の背中を擦りながら言った。


「…それで良いんだよ。」

「…え?」


――次の言葉を言った彼の声に

――彼の全てが込められているような

――気がしたのはきっと

――マヒロと過ごした日々が

――あったからなのだと思う。



「ミサは最初から人間なんだ。」



――その言葉を私は認めたくなくて

――ずっと私は自分から目を背けていた。



「違う。」

「違わない。」

「違う!」

「ミサ!」

怒鳴られて強張った私の身体。

それに気づいた彼はごめんと謝った。

「でも、ミサは人間だ。」

彼は意見を変えなかった。

そんな彼の腕の中で問いかける。

「…どうしてそう思うの?」

「ミサは優しいから。」

――前も言ってたよね。その言葉。

でも――

「優しくなんか…ない。」

聴こえるか聞こえないかぐらいの

小さな声だったと思う。

だけども、君はしっかりとその言葉を

拾ってくれた。

「ううん、優しいよ。」


――違うよ。

――優しいのは君の方だよ。

――もし、本当に優しいと思うのなら

――それは、君のおかげだよ。

――君のおかげで優しくなれたのだと思う。


「優しいと、何で人間なの?」

「…何でだろうな。」

「ちょっと!」

彼の返答に納得できなくて

彼の胸を軽く小突くとマヒロは小さく笑った。

――マヒロはいつも笑っていた。

――そんな彼に何度憧れたことだろう。

「…笑えないんだけど。」

「笑えよ。」

「無理。」



彼の笑顔が見たくなって上を向く。



――向かなければよかったと後悔した。



――笑顔なんて何処にもない。



――悲しくないなんて嘘。



――彼の顔は悲しみで満ち溢れていた。