「玲音、お待たせっ! ごめんね、お腹空いたよね」


稽古を終えて、更衣室で私服に着替えたりりちゃんが駆けてきた。


すると、そこに道着のままの颯大が
りりちゃんを追いかけてやって来た。


「りりか、もう帰るの? もう少し稽古つけていけばいいのに」


りりちゃんの頭にポンっと手を置いた颯大。

そんな颯大を見上げながら

りりちゃんが答える。



「うんっ! 颯大、また来週ね! 」




それを聞いた颯大は
明らかに残念そうな顔をしている。


颯大の下心に気がつかないのなんて、
りりちゃんだけだ。


するとタオルで汗を拭きながら

颯大がゆっくりと俺に顔を向けた。



「玲音くん大きくなったな」


りりちゃんより頭一つ大きい颯大が
穏やかに笑いながら

おれの頭を撫でようと手を伸ばした瞬間、

颯大の手を強く払った。


「玲音?どうしたの?」


驚いた顔をして目を見開いたりりちゃんから
プイッと顔をそむけた。

りりちゃんと颯大を見上げている自分が
みじめだった。


「なんでもない」


驚いた顔をしたりりちゃんを視界の隅にとらえながら、
道場の出入り口に向かって駆け出した。