午後になってりりちゃんが急に空手の道場に行くといいはじめた。

そんなりりちゃんについて稽古場までやってきた。


「じゃ、玲音、そこで待っててね!」


道場の隅に座ると、

道着姿のりりちゃんが背筋を伸ばして稽古の列に加わる。


道場では張り詰めた空気の中、
師範の厳しい声や掛け声が飛び交っている。


背筋をピンと伸ばしたりりちゃんの組手の相手は

1つ年上の流山颯大(ながれやまそうた)


りりちゃんは道場の内でもかなり上手な方だけれど、

流山颯大にはかなわない。


りりちゃんは稽古が始まると
目を離さずに颯大の動きを追っている。


りりちゃんが颯大のことを、強く意識しているのが分かる。


颯大は多分、

違う意味でりりちゃんのことを意識している。



りりちゃんと背の高い颯大との取り組みが始まると2人の気迫に道場が静まり返る。



小さい頃は互角に勝負していた2人だったけれど

中学生になってからのふたりの力の差は歴然としていた。


稽古の最中も、颯大がりりちゃんに気がつかれないように、

うまく手加減しているのが分かる。



これ以上ないほど真剣な目をして技を決めようと攻めるりりちゃんを、

颯大が余裕の表情でかわしている。


道場にいるときのりりちゃんの目には、
颯大しか映らない。


そんなふたりのことを唇をかみしめて見つめた。