え……?


驚きすぎて、声にならない。


「母さん、あんな状態だし、父さんの帰りは遅いし。
ばあちゃんが九州にいて、全寮制の高校が近くにあるからそこに行きなさいって」


……玲音が九州の高校?


「玲音は行きたいの?」

声が、震えるのは、寒さのせいじゃない。

「わからない……」

「わからないって、自分のことでしょう?玲音はそれでいいの?」


玲音に怒っても仕方がないのに、口調が強くなる。


悔しくて悲しくて、どうしたらいいのか分からない。


玲音は硬い表情のまま、なにも言わない。

玲音の頬を両手ではさんだまま、まっすぐに玲音を見つめる。


「私はいやだよ。玲音が九州に行くのはいやだ。

だって、ずっと一緒にいたのに、どうして急に九州に行くなんて話になるの? 
今までみたいに、うちでご飯食べて高校に行けばいいでしょ? 
どうしてダメなの?」


「りりちゃんの家に迷惑がかかるから、ダメだって。
もう、俺たち子どもじゃないからって」


玲音の言葉に、ぎゅっと唇を噛み締める。


「そんなの意味わからないっ。私がおばさんに話してくるっ」


ベンチから立ち上がりバス停に向かおうとした私に、
玲音がさみしそうに笑った。


「りりちゃん、もう面会時間は終わってる。それに、今の母さんはそんなに長い時間、話せない」


玲音の言う通りだった。


「でも、玲音はそれで本当にいいの?
 誰も知らない場所にひとりで行ってもいいの?」


「どうしてりりちゃんが泣くの?」


私を見上げた玲音にくるりと背中を向けて、泣き顔を隠す。

「泣いてないっ!」


だってそんな遠いところに行ったら、玲音は本当のひとりぼっちになっちゃう。

おばさんにも会えなくなっちゃう。

玲音はひとりぼっちで眠れない夜を過ごすことになる。

玲音が寂しいときに、だれが、玲音のとなりにいてあげるの?

どうして玲音がひとりぼっちにならなきゃいけないの?

涙を手の甲で拭うと、玲音に向き直る。