「あの、如月先輩!」


水道で顔を洗っていると、名前を呼ばれた。


「あの、今、いいですか?」


真っ赤な顔をしている見知らぬ下級生をチラリと見て、
視線を戻した。


「あの、如月先輩は吉川先輩と付き合ってるんですか?」


返事は、しない。


「その、今は好きじゃなくてもいいので、お試しでもいいから、

私と…付きあってもらえませんか?」


「ごめん」


視線を合わせずに答えた。


「それは、好きでいるのもダメってことですか?」


「ごめん、もう行ってもいいかな?」


タオルで顔を拭いて、その場を離れた。


俺にはりり花しかいない。


りり花にも俺だけでいてほしいと思うのは、

俺のわがままなのかな。



視線をあげると、

2階の教室で瀧澤と机を並べているりり花の姿が見えた。



気が付けば、校舎にむかって走り出していた。