勘太郎は随分弱ってきた。
以前は小屋の周りでは多少立ち歩いている姿があったけれど、最近は小屋の中でうずくまっていることが増えた。
散歩も行きたがらないことが多く、迅が強引に台車に載せないと自分からは動こうとしない。トシさんひとりの時は犬用のおむつをはかせているそうだ。

トシさんは縁側に勘太郎のスペースを作った。古いバスタオルを敷き、勘太郎お気に入りのぼろぼろのぬいぐるみを置いてやると、勘太郎は室内でも安心している。

「トシさん、私、勘太郎に何かおもちゃを作ってあげていいですか?」

縁側でトシさんとふたり、勘太郎を眺めながら私は聞いた。おそるおそるの提案だった。

「勘太郎、寝そべってることが増えたし、機嫌いいときはあのぬいぐるみやバスタオルかじってるでしょう?おもちゃをあげてはいけないですか?」

勘太郎のくわえているぬいぐるみは、すでに原型をとどめないほどくたびれている。おそらくは何かのキャラクターだろうと思うけれど。

「あんた、受験生だろう。時間を無駄遣いするんじゃないよ」

にべもなく言われるけれど、思ったより拒絶的じゃない。私は言いきる。

「これでも学年トップなんです。志望校はほぼ受かるって言われてます。毎日勉強してると飽きちゃって。2日ほどでできますから」
「あのあんちゃんの手に巻いてる紐もあんたが作ったんだってねぇ」
「はい。ミサンガっていうんです。トシさんにも作りましょうか?」
「いらないよ。馬鹿らしい」

トシさんがわずかに感心した口調で言うので、つい調子に乗ってしまった。
失敗失敗と思いながら、以前ほどダメージを受けていない自分に気づく。トシさんの人柄をなんとなく知ったせいかもしれない。