拝殿の傍で水筒の水を飲み、休憩にした。ようやく山々の景色をまともに見た気がした。正午を過ぎ、空は雲が増えてきたけれど、光がない分かえって山の冴えた緑がはっきりと眼に映る。濃淡のある緑の海が眼下に広がり、私は知らずため息をついた。

「神社、回ろう。御神木もあるんだってさ」

話に聞くには毎月1日には、その御神木のかけら入りのお守りが頒布されるらしい。そのときは、車用の道路は渋滞すると、近くに座った年配の参拝客が話していた。
霊験あらたかな神社で、きっと合格祈願をすべきなんだろうなと思う。ふいに皮肉な気持ちになってしまう私はひねくれているのだ。

「真香、大学の志望学部、法学部なんだっけ」

ベンチに並んでかけ、横から問われて私は驚いた。迅が知っているとは思わなかった。お母さんと伯母さん経由で知っていたのだろうか。

「弁護士とか、考えてんの?」

迅は無邪気を装っているけど、私の将来の話をしたいのだ。この前、夢なんかないと言い切った私を心配しているのかもしれない。
夢はあった。
口にしない夢はあった。
だけど、潰えてしまった。もうなんの意味も見出せない。

……もう言ってしまおうかな。なくなった夢だし、迅がどうとるかわからないけど、こんな綺麗な空気と景色の場所で、嘘をついてごまかしたくない。

「警視庁に入りたかったの」
「ほあ!?」

私の言葉に迅が叫んだ。相当驚いたらしい。

「大学出て、国家一種試験に受かって、キャリア入庁……迅の上司になっちゃうとかね」
「おまえが警察って、なんでまた……」

一瞬言いよどんでから、私は言った。

「迅の役に立ちたかった。現場で働く警察官を万全に支援できる警察組織を作りたかった。迅を裏でサポートしたかったの」