次第に道は細くなり、勾配も険しくなる。
小さな滝があり近くの東屋で水は飲んだけれど、休憩らしい休憩はそのくらいだ。
大きな岩を越えるときは、先に行く迅が私の手を引いてくれた。触れば温かい手のひらに、今は甘える。

かつて薬師堂があった付近を通り、これで三分の一程度ということに絶望すら覚えた。でも後戻りもできない。進まなければ終わらないし、登りきらなければ今までのことが無駄になる。

山道は苦しい。気管支がひゅうひゅういって、胸は圧迫されたみたい。
やめたい。帰りたい。
だけど、こうなればもうできないことが悔しい。体力がない自分が憎い。なんとしても神社までたどり着きたい。

「マナカ、頑張れ。あと少しだ」

迅の励ましに頷くことしかできなかった。必死に坂道に食らいつく。あと少し、あと少し。動け脚。つま先を前に出せ。
不意に視界が開けた。
3時間かけて登りきったそこは拝殿の一部の様子だった。本殿がないのでわかりづらいけれど、ようやく神社にたどり着いたらしい。

「よくやったな。ゴールだぞ」

森の中ではあるけれど、景色は開け、神社の敷地のほとんどが見えそうだ。

「登れた」
「うん、登れたな。頑張った!」

迅が私の帽子を外し、前髪をかき分け汗まみれの額を撫でた。帽子で顔を扇いでくれる。真っ赤な頰の私が暑そうに見えたみたい。

「やればできるでしょ」
「マナカが必死こいてる姿、面白かった」
「意地悪だなぁ!」
「いつもクールだからさ。そういう顔が見たかったの」

迅が明るく笑う。私の大好きな笑顔で。

「生きてるって感じするよ。俺もおまえも」

うん、そうだね。汗ひとつかいていない迅と、汗びっしょりでクタクタの私。
私を通して、迅は生きている。