「迅は何者だい?あのあんちゃんは生きていない。精気が感じられない。最初に出会ったときからそうだった。見た目は生きているのに、人形のように気配が薄い」

トシさんの見つめる先は畑で雑草を刈っている迅の姿だ。私はそんなトシさんの横顔を凝視した。
トシさんは気付いている。

「そもそも勘太郎がなつくってのがおかしいんだよ。こいつはね、私と死んだじいさん以外にゃなつかない犬なのさ。きっと、勘太郎にはわかるんだろう。死に近い生き物だって」

どういったらいいだろう。なんて説明したらいいだろう。
だけど、ごまかしたって上手くいかない気がした。
トシさんはこの不思議な出来事にずっと気づきながら、今日まで口にしないでいてくれたのだ。
それなら、くだらない嘘はやめよう。

「トシさん、迅は生きていません。私の従兄は春に死にました」

私は言葉を選ぶこともできずに思ったままを口にした。

「どうして今、迅がこうして人間に近い身体で私の前にいるのかわかりません。迅本人もわかりません。いつか、迅は成仏していくんだと思います。けして悪意があったり、誰かを恨んで幽霊になっているわけじゃないんです」

トシさんに向き直り、私は頭を下げた。

「どうか、迅がいなくなる日までここでお手伝いをさせてもらえませんか。私は夏休み明けには東京に戻らなければならないので、最後の時間をここで過ごさせてもらえませんか?」
「別に幽霊だろうがなんだろうが、便利だからいいよ」

ふうとひとつ嘆息して、あっさりとトシさんは答えた。

「ただ、急にいなくなられたら不便だね。あんちゃんに手伝ってもらうのに慣れちまった。こりゃ、サボってる場合じゃない」

首をぽきりと慣らして、トシさんが立ち上がった。

「まさか幽霊が転がり込んでくるとはね。面白い夏になったもんだ」