俺たちにとっては想像することすらできない激痛が彼女を襲っている筈だが、吉永は悲しそうな目をしてどこか諦めがついた、清々しいような表情をしていた。
吉永は呆然としている俺達に目線をやって、吐血が口からドロドロと垂れながらも笑顔を向けた。
"ありがとう"
確かに吉永は口パクだがそう言った。俺はいつの間にか涙を流していた。悲しいとか辛いとかそんなものではなく、胸を締め付ける何か別の感情が湧いて出てきた。
吉永はブルブルと震える片手で部屋のドアノブを掴み、自分の方へ引いた。徐々に消えていく鬣犬と吉永の姿。
それを見ていた青山が涙を流しながら、ドアの方へ走った。俺は青山のすることを察し、青山を捕まえた。
「吉永!吉永ぁぁぁ!!離せ西条!離せよォォォ!!」
「今行けばお前も殺される!吉永は俺たちに逃げろって言っているんだ!!吉永の行動を...意志を無駄にする訳にはいかねぇだろ!!」
「んなのどっちでもいいんだよ!俺は...俺は助ける!助けてぇんだよ!!お前はここでただ吉永を見殺しにしろっていうのか!?」
「そうじゃねぇ!!そうじゃねぇが...」
俺は思わず黙り込んでしまった。静寂になるとドアの向こうから咀嚼音が聞こえてくる。