吉永が何かを言おうとした刹那、黒い物体が吉永の右肩の上に乗っかった。
よく見てみると黒いのは髪の毛、つまり頭部が吉永の右肩に乗っかっていた。

鬣犬は吉永の肩と首のちょうど間の部分に噛み付いていた。汚れた手を吉永の頭を掴み、離れないようにしていた。

まるで吸血鬼が血を吸う時のよう....いや、血を吸うだけという生易しい事ではなく、鬣犬はその噛み付いている首元を噛みちぎろうと力を込めていた。


「がっ!...な、なんで?そんなに簡単に取れるもんじゃ...」


吉永は血反吐を吐きながら噛み付いている鬣犬を見た。すると、激痛を忘れさせる程の衝撃があったのか、吉永は目を見開いた。

俺も吉永が目にしている先を見てみると開いた口が塞がらかった。

鬣犬の目が半分しかなかったのだ。いや、徐々にだが傷口が治っていき、真円の形になってきている最中だ。

俺はまさかと思い、さっきまで鬣犬がいた位置を二人の足の隙間から見ると、ガラスが丁度鬣犬のまだ治っていない部分と同じくらいの大きさの白い物体に突き刺さっていた。

鬣犬は自ら目を抜き取ったのだ。取れないと分かって目、そのものを取った。

その事を悟ったのか吉永はどこか遠くを見ていた。鬣犬が夢中になって噛み付いている所からは血が噴水の如く出てきていた。