「うるさい!邪魔しないでよ!西条、私は自分が死のうがどうでもいいの。理沙の仇を討てるかどうかが重要なのよ!」
「ふざけんな!それじゃあ誰も喜んだりしねぇよ!死んだ理沙でさえ....」
青山が珍しく感情的になっていると、吉永は目付きを変えた。
鬣犬に向けていた鋭い目付きが、もどかしくなっている。まるで何かを察してくれと言わんばかりに。
吉永はその合図を終えると再び鬣犬の方を見て、鋭い眼光を光らせた。
「私は...あいつを殺せるだけでいい。それだけ、それ以外は何も望まない!!」
そう言い終わるのと同時に吉永は鬣犬に向かって全速力で間合いを詰めた。
それに対して鬣犬は、包丁を構える訳でもなくて、逃げる様子もなく、殴って反撃しようともしなく、子供を抱こうとする親のように優しく両手を広げた。
鬣犬は余裕の表情でニヤニヤ笑っていた。それもその筈、鬣犬にとってはどんな攻撃も無力。だからこそ、何もしなくても勝てる。
「いいよぉ〜どんな事をするのかなぁ?殴る?首締める?噛み付く?何でもいいよォ〜。」
吉永は鬣犬に飛び掛った。鬣犬の肩を押し、身体を倒した。そして吉永が片手づつ手に持っていたのは大きなガラスの破片だった。
恐らく、この部屋に入った時に拾っていたのだろう。