鬣犬までの距離はわずか約二メートル、それが何百メートルも何キロメートルにも感じるほど遠く感じる。


「ふふふっ....み〜んなよく分からない顔してるねぇ〜ふふふふふふっ。ここに来る人全員がそんな顔するんだよねぇ〜
私が何で死なないのか〜な?」


鬣犬は片手で髪を掻き分けた。すると、さっきまであったはずの額にある被弾の穴が、小さくなっている。


「治っちゃうんだよねぇ〜ど〜んな傷もぉ〜!
あの日以来ここからは出れないけどぉ〜おかげで面白いこと出来るし、美味しいものが来るし〜」


青山は鬣犬に向かって全力疾走で走った。片手には野宮さんを刺した包丁が握られていた。


「悪霊みたいなもんか?信じられねぇが外からきたものは効かねぇらしいな。だけど...お前の持ち物はどうかな?

不死身なんてこの世にはない。悪霊みたいなお前と言えどなぁ!」


青山は包丁を鬣犬の横腹に突き刺した。だが、鬣犬は涼しい顔をしていた。


「それは見たことないだけでしょ?そういう実例がないだけ。私がその実例なんだよぉ〜。
悪霊って言ってたけど多分そ〜だね。私は死んだ。だけど....祓うのは無理ぃ〜♪

霊媒師みたいな人とか色んな道具を持ってきた人もいたけど、今ではここにいる〜」