午後5時
部活を終えて1時間。
そわそわしてしょうがない。
散歩にでも行ってこようと思って自室を出た

近くの河川敷を歩いていた。
そしたらどこからかトロンボーンの音がする

この音色は誰かなんてすぐにわかった。
翔くんが明日のソロパートを吹いている。
翔くんの姿を探した。
そしたら今までにないくらい真剣に…
そして優雅に吹いている。
今日の体育館で聞いたソロパートとはまるで違う。
立ちながら思わずうっとりしてしまった。
そして彼が楽器を下げた。
「ふぅ、疲れた」
そこには、別の彼…いつも通りの能天気な彼がいた。
さっきまで何かに憑依されたようなそんな気がしてくる。
「おぉ、せっちゃん。何してるの?」
「別に。聞こえたから」
「えぇ、聞かれた?どうだった?」
「かっこよかった」
「え…」
呆然としてる翔くん。
「すごい…かっこよかった」
「えぇ、どうしちゃったのかな?もしかして惚れた?」
「かもね…」
「え!」
驚かれたけど、それが本音だ。
ずっと前から翔くんが好き。
恋愛対象として
だけど、それを伝えるにはまだまだ早そうだ…

「そろそろ帰んなきゃ」
そう言ってトロンボーンを片付ける翔くん。
そしたら翔くんの携帯が震えた。
電話のようだ…

「ちょっとゴメン」
そう言って苦い顔をして私から離れた。
「明日?でも学校祭だから」
何やら明日の事を話している。
彼女とかかな…
だったら嫌だな…
「じゃあその3日後の15時に」
学校祭の片付けの日に何かするらしい。

「今、何時?」
私は時間が気になって翔くんに問う。
「5時半くらい」
「ありがとう」
「あ、そうだ。見てこれ」
「何?何これ…」
そこには翔くんの待ち受けで…
私が寝不足で眠くて休み時間に譜面を広げて寝ている画像があった。
しかも腕で隠してたはずなのに、うまく腕の上に顔を乗せている。
「ちょっと、犯罪!」
「なんで?可愛いじゃん」
「な!可愛くない!もう…」
可愛いとか言われて動揺した。
「そんな事言うならね…」
私は写真の中から翔くんの写真を探した。
恥ずかしいやつ…恥ずかしいやつ…
でも私の持ってるのは少ない…
コンクールの時とかしかない
「く…もうなんでないの」
「ぷ…何してんの?」
「翔くんの恥ずかしい写真がない」
悔しい…悔しい。
私はカメラを起動して翔くんを写した。
でも…夕日に照らされて翔くんが際立つだけだった。
「もういい。これにする」
さっき撮った写真を待ち受けに設定する。
「苦し紛れ」
「うるさい!一生変えないから」
「奇遇〜。俺もそう思ってた」
「はぁ、なんか疲れた」
「帰ろっか」
「うん」
私たちは帰り道を歩いた。
「金管はいいよね…外でガンガン吹けるから気持ちいいだろうな」
「そっかクラリネットは陽に当てたらダメだからな」
タオルか何かを巻かなきゃ外で吹くのは出来ない。
だからちょっと不便。
「明日、頑張ろね」
「おう。お互いベストを尽くそう」
「バイバイ」
「じゃあ」
私は家の中に足を踏み入れた。
そしたらさっきまでのやり取りが急に恥ずかしくなった。
私は早足で自室に向かって、ベットに横になった。
「なんでカッコいいとか言っちゃうかな…」
私は枕に自分の顔を押し付けた。
「ありえない」
自分の行動がありえない。
右耳にイヤフォンを入れて曲を流した。
そして私は目を閉じた。