ちょっと前まで、帰宅していく生徒で溢れかえっていた玄関はすっかり、物静かな空間へと戻っていた。



それを見計らったかのように図書室から並んで降りてきたわたしたちは、不意に足止めを食らった。




呼ばれた声に振り返れば何が嬉しいのか、顔に満面の笑みを湛えたクラスの友達。




わたしと隣に居る雨音を二~三度交互に見つめた後、彼女は素早くわたしの傍に寄り、雨音の顔をチラッと窺い見た。




「いつの間に陽光くんから乗り換えたワケ?」



きっと彼女に悪気は無いんだろう。
ただ色恋沙汰の噂をするミーハーな女の子の顔が耳元で囁いた。




いくら小声でも、こんなに静かな場所だったら聞こえてしまってもおかしくない。




現に、わたしたちを一歩離れた場所から見つめていた雨音の顔が、遅い速度で曇っていった……。