きっと日咲は覚えていないだろう。
初めて言葉を交わした日のこと。
ずっと憧れていた名前と同じ笑顔で笑う女の子。
久保 日咲。
お日さまみたいに明るくて、全てに温かい咲(ワラ)い顔。
名前に一目惚れして、笑顔に一目惚れした。
日咲一人に二度も一目惚れした、なんて言ったら日咲は笑うだろうな。
そんな日咲が、憧れていた笑顔を近くに寄せて発した第一声。
「落としたでしょ? ハイ」
明るく人懐っこい笑顔と共に差し出された右手には、見覚えのある黄ばんだ栞が乗っていた。
「あ、りがとう」
恐る恐る伸ばした指先が日咲の手に触れた。
一気に高鳴る心臓がバレてしまわないことを気にする間もなく、日咲は友達の待つ方へと走っていってしまった。
ほんの一瞬なのに、俺の中での日咲の存在はますます膨れ上がった。