伊織さんが「溜まり場」と言っていた場所に着くと、3人の人物がソファを囲うようにして立っているのが見えた。

私達が来たことに気づいたのか3人とも此方へと顔を向ける。


「一華の元カレは?大丈夫なの?」

「ついさっき目を覚ましたところさー」

「一華がうるさくて目が覚めちゃったよ」

「久しぶりだっていうのに冷たいなぁ。春佳ぃ~うりうり~」


一華と呼ばれる女の人が移動してソファに座っている人物の頬を人差し指で突く。


「いたっ…!!一華、そこ怪我してるとこだから」

「先輩!!」

「翼ちゃん!?」


ソファに座っている人物…先輩が見えた瞬間、私の身体は考えるより先に動いていた。

先輩がいなくなってから数時間しか経っていないはずなのに、長い間会えていなかったような感覚。

やっと…やっと先輩に会えた…。

先輩の顔を見ると数カ所に絆創膏が貼られたりうっすらアザがあるが、夏休みにあった時ほど目立った怪我はない。

気を失ってる、と聞いたから凄く心配したけど…


「そんなにじっと見つめられるとさすがに照れるんだけど」

「えっ?すっすみません…怪我をして気を失ったと聞いたの…で……あれ…」


目頭に熱さを感じたと思えば、何かが頬を伝う感覚に気づいた。

それを確かめるために頬に触れると指先が濡れる。

次に私の頬に触れたのは先輩の指先。


「勝手にいなくなっちゃってごめん。知らない場所で放って置かれて怖かったよね。ほんとごめんね」


そう何度も謝る。

だけど、涙が出た理由は先輩の思っていることではないことは確かだ。

怖かったわけでも、寂しかったわけでも、悲しかったわけでもなく。

先輩が勝手にいなくなったことに怒ったわけでもない。


「先輩が思っているようなことではないので…謝らなくて大丈夫です」

「ほんとに?じゃあ、どうしたの?」


頬から頭に手を移し、子供をあやすように優しい手つきで頭をゆっくりと撫でる。

そんな先輩の手の温もりを感じると、さらに涙の量は増えてしまった。


「えっ翼ちゃん?」

「っ……先輩………私…」

「うん?」


凄く心配で不安になって。無事だったってわかるとこんなに涙が出るくらい安心して。

我慢出来ないくらい感情を揺さぶられる。

もやもやしたり、暖かい気持ちになったり、胸の辺りがきゅっと締め付けられるような感覚になったり。

今まで感じたことのない気持ちにさせる。


「好き」


この答えが正解なのかなんてわからないけど、きっとこの言葉が一番合う。


「ん?翼ちゃん、今なんて言った?」

「え…?」

「小さい声で何か言った気がしたんだけど」

「私、何か言いまし……!!」


無意識に声に出してしまっていたことに気付く。

気づけば涙は収まり、目頭の次は頬が…いや、体全体が熱くなっていくのがわかる。


「い、いえ!何も言っていません!」

「そ、そう?それならいいんだけど」


どうやら先輩には聞こえていなかったようだ。

良かった……のかな。