「月の光に狂わされた……な」

アンが出て行った浴場で、ひとり月を眺め自嘲する。

悪い自分を見せてしまった罪悪感からか、月の光が目にしみた。

彼女が逃げてくれて良かったと思う。

もし、あのままずっと自分の腕の中にいたら、アンを本能の赴くままに抱いてしまったかもしれない。

愛おしいが故に欲しくなる。

愛おしいが故に……自分を抑えられなくなる。

俺の結婚を知ってアンはひどくつらそうだった。

そんな彼女を見ていたら、つい我を忘れた。

岩場に置いてある着替えに腕を通すと、アンと同室の侍女が現れた。

コレットだ。

「あの子、泣きそうな顔してたわよ。優しい王太子さまが一体何をしたのかしら?」

腕を組んで俺を見据えると、コレットは妖艶に微笑みながら俺を皮肉る。

こいつも魔女だ。