うまい言い訳が見つからず黙り込む私にディオンは告げた。

「絶対に城出なんかするなよ。兄上の機嫌が悪くなるから」

「どうして私が城を出ると、クリスの機嫌が悪くなるのよ?」

〝心配する〟ならわかる。

でも、あの穏やかなクリスの機嫌を損ねるなんてあり得な……いや、なんかもうわからないや。

この十八年彼の何を見てきたのだろう?

私はクリスのことを何も知らないのかもしれない。

さっきのクリスは、私の知らない人だった。

「お前さあ、なんで自分が結婚してないか、不思議に思ったことねえ?」

「それは誰からも求婚されないから……って、何恥ずかしいこと言わせんのよ!」

バシッとディオンの背中を叩くと、彼は大袈裟すぎるくらい深い溜め息をついた。

「本当にお前は何も知らないよなあ」

ディオンの人を馬鹿にした物言いにカチンとくる。

「何が?」