「どちらも俺だ。でも、最近はわからなくなった。最初は病弱な振りをしてみせたのがきっかけだったと思うが……。正論や綺麗事だけでは生きていけない」

クリスが自分のことを話すのは珍しい。

彼の母親である第一王妃は、彼を生んですぐに亡くなった。

国王陛下は冷たい方で、自国の領土を広くすることしか考えていなかった。

子供だったクリスを守ってくれる大人なんていなかったに違いない。

周りはフィオナのような強欲な大人だらけ。

誰も信用できなかったんだと思う。

だから、クリスは自分を守るために子供の頃から頭を使って戦ってきたのだろう。

私まで騙して病弱な振りをして……。

私が黙り込むと、クリスは私の頰をつねった。

「冗談だ。お前はすぐにそうやって悲しそうな顔をする。今の話、信じたのか?悪い男に騙されるぞ」