「あ、あの、日比野さんっ」

「なぁに?」

「ありがとう……っ」

「え?」

「わ、私……ちょっと、行ってくるね!」


そうして私は鞄を両手に抱え、足早に教室をあとにした。

向かったのは、第一棟だ。

特進科の生徒たちが通うその棟は、普段は私が絶対に足を踏み入れることのない場所で……。朝陽とリュージくんが、学校にいるほとんどの時間を過ごす場所でもあった。


「2―A……」


それは朝陽のいるクラスだ。

2―A。私の記憶が確かであれば、朝陽もリュージくんも、その教室にいるはずだ。

普通科や商業科よりも授業数の多い特進科は、つい先程、授業が終わったばかりだった。

だから今から教室に向かえば、朝陽もまだいるだろう。

そう思うと自然と心が急いでしまう。

第一棟に繋がる渡り廊下を駆けて、放課後に賑わう校舎を緊張しながら歩いた。

擦れ違う人たちは特進科の生徒ばかりで、なんだか肩身が狭くなる。
 
それでも足を止めなかったのは、私がどうしても──朝陽に会いたかったからだ。