「じゃあ、さっそく始めよう!」


そんなことすら今の今まで忘れていた自分が、心の底から嫌になる。

また、大切なことを忘れてしまうところだった。

忘れ物だって……今日は、携帯電話を家に忘れてきてしまった。

昨日は定期を家に忘れて、慌てて駅から家まで取りに戻ったというのに、本当に自分で自分に呆れてしまう。

朝陽と離れたこの一週間、私が忘れ物をしないで学校に来られた日は一日もないのだ。


「えーと。そしたら、まずは私がやるから、よく覚えてね。ファンデーションは、最初に化粧水と……クリームと下地を塗って、それから……」


賑やかな放課後の教室。

私の席の前に座って真剣な表情をしている日比野さんを前に、私はとうとう観念した。

そっと瞼を閉じれば、世界が真っ暗な闇に包まれる。

──いっそのこと、生まれ変わりたい。

そんなことを思う私は、どうかしているのかもしれない。

だけど、本当にできることなら今の自分を脱ぎ捨てて、私は新しく別の人間に生まれ変わりたかった。

……だって、そうすれば朝陽の隣に堂々と、立っていられたかもしれない。