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「つーきしーま、さんっ!」


その日の放課後、大量のメイク道具を抱えた日比野さんに、私は帰ろうとしていたところを捕まった。

以前、私が頼んだ『メイクの仕方を教えてほしい』という願いを叶えるために、わざわざ家から道具を持ってきてくれたらしい。

……あのときは、朝陽の理想に少しでも近付きたいと思って、日比野さんにお願いしたのだ。

だけど、朝陽と決別した今……私には、まるで必要のないことになってしまった。


「日比野さん、私、やっぱり──」

「あれから私なりに雑誌も読んで研究したんだ! どんなメイクなら、月嶋さんに似合うかって!」

「え……」

「それでやっぱり、月嶋さんにはナチュラルメイクかなぁって思ったんだよね。だから、お姉ちゃんに頼んで、いくつかメイク道具も借りてきちゃった」


あっという間に机の上へと道具を並べ、嬉々として語る日比野さんに、今更『必要ない』とは言い出せなかった。

そもそも、話を持ち出したのは私だ。

私が日比野さんにメイクを教えてほしいと言ったから、彼女はそれに応えようとしてくれているだけ。

今思えば、昨日──帰り際に、『明日、メイク練習しよう』と言われたときに、きちんと断るべきだった。

そのときも確か、同じことを考えたのだ。