「あ、あの、さ……綾……
あたし今日……」


「おおっと、杏華さんストップー!」


「……な、なにそのポーズと口調……」


「言わなくても分かってまーすよ。
今日は……薫とデートでしょ?」




途端に顔だけじゃなく耳まで真っ赤にする杏華。


いいなぁ、こんな可愛らしいリアクションできて。




「あたしのことなら大丈夫だよ。
楽しんできなよー、デートデート」




ちょんちょんと杏華を小突きながらからかうとやめてよーと真っ赤な顔のまま、ちょっぴり怒られた。

うん、可愛いか。





「じ、じゃあ……また明日ね!」


「うん、また……ね」





幸せそうに小走りしていく親友の後ろ姿。

ただ、見ていただけ。


……大丈夫。

バレない、バレちゃ駄目なんだから。


薫のこと……好きだってこと。


昔から嘘をつくのはそれなりに上手い方だった。

もちろん悪用したことはないけど。


自分や周りに嘘ついて……

足並みを無理矢理にでも合わせてきた。



こんな……つまんない人間になったのは……いつからだろう。



小さい時は何でも思ったことぶつけて、やってみたいことをやって。


でもそれは、大きくなるにつれ誰かを傷付けることになるのを知り。


やってみたいことをただやることは自分勝手、だから駄目。


そんな周りの空気にいつからか抗うことを止めた。