悠は目の前の段ボールから隅に積み上げられている段ボールの山へと目を移す。


「仁先輩のモテ度をなめてました。こんなに凄いんですね…」

「月桜は生徒が多いしね。まぁ他校からも貰ってるみたいだけど」

「もはや芸能人並みですね」

「仁も仁で断ればいいのにね~。「そんなの折角持って来てくれたのに申し訳ないだろ」だってさ」

「うわー。そういうとこ律儀だな、仁先輩」


状況を理解した悠は小箱を開けてチョコを食べ始めた。

そして仁の律儀さはそれだけじゃない。


「あれ?これ1つ…ない?」

「仁が食ってるから。ほら、俺が今開けたのも1つだけないだろ?」

「本当だ。柊也先輩のもないですね」


悠の持っている4つに区切られている小箱にはチョコが3つしか入っていない。

そして俺の持っている3つに区切られている小箱にはチョコが2つだけ。

本来ならこの不自然に空いた1つにもチョコが入っていたのだろうが、それは仁が食べているからないのだ。

袋だと区切られていないから分かりにくいが、これもおそらく仁が1つは食べている。

全部は食べきれないために俺たちに食べる手伝いをさせてはいるが、仁は貰った分の1つは必ず食べるというもう1つ律儀なところがある。


「仁先輩、その律儀な優しさを身内にももう少し出してくれればいいんですけど」


香月以外のその場にいた全員が頷く。


「皆さん、仁先輩は少しだけ意地悪なところは……ありますが…。で、でも!優しいですよ?」

「ゆいちゃん、仁が優しいなら俺のほうがもーっと優しいよ?」

「いや央が優しいわけねぇだろ。優しいってのは俺みたいな奴のことを言うんだよ」

「奏十先輩が優しいとは僕は思いませんけど」

「って言うちーも優しくないけどね〜」


生徒会の言い合いループが今日もまた始まる。

香月は止めたいが口が出せないといった様子で、困った顔を見せていた。

静音や他のこの状況に慣れた外野がいればこの場を止めるだろうが、残念ながら今日は誰もいない。

まぁ、暫く放っておけばその内終わるだろう。

そう思っていた矢先、隣に座っていた悠が溜め息を吐いて立ち上がった。

香月を見兼ねた悠が止めに入るのか…


「何を言ってるんですか。この中で一番優しいのは柊也先輩に決まってるでしょ!」


と思っていたら勝手に巻き込まれた。

3人の視線は一斉に此方へと集まる。

俺はその視線から逃げるようにただただチョコを見つめながら口を動かした。