- 柊也side -



「ごめんね、みんな。今日が最後だから」


そう言って部室を後にする静音。

静音は早くても18時までは部活をやると勝手にルールを決めている。

だから今までは依頼がなかったとしても18時まではいたのだが、こうして18時になる前に帰るのは今日で3日目だ。

宮井はドアのところまで静音を見送ると、素早く此方へと戻ってきてソファに座る。

そして前のめりになり、真剣な表情を見せた。


「この3日間、先輩が早く帰っているのは怪しいです」

「ついていけば?得意だろ?」

「それは山々ですが先輩に部活を任された以上、ここを離れるわけには…ってなんですか!得意って!」


少し頬を膨らませ、悠を見る。

昨日、一昨日は俺と宮井の2人だったが、今日は悠も部活に来ていた。


「はっ…もしかして好きな方と両思いになって会いに行っているのでは…」

「それはないから安心しなよ。ね、柊也先輩」


なんとも楽しそうな表情で俺に同意を求めてくる悠。

悠にバレた時点でからかってくることはわかってはいたが、本当に面倒だ。

俺が返事をすることもなんらかのリアクションを起こすこともせずにいると宮井は更に前のめりになった。


「白木くんは先輩の好きな方を知っているんですか!?」

「逆に宮井は知らないわけ?」

「し、知りませんけど…」

「なんで?静音先輩に聞けばいいのに。
あ、もしかして教えてもらえないんだ?」

「うっ……せ、先輩は恥ずかしがり屋さんですから!そこも可愛いのですが!」

「本当に恥ずかしがり屋だからってだけ?宮井だから教えなっ」

「違います!そんなことはありません!!」

「悠、もうからかうのやめとけ」


宮井は少し目を潤ませながら悠を睨む。

そしてチラリと棚の上に置かれたぬいぐるみへと目線を向けた後、拗ねたように呟いた。


「どうせ明日には知れますし…」


正確に言うとぬいぐるみではなく、その裏にあるカメラに目線を向けたのだろう。

まぁ宮井が期待しているものがそのカメラに映ることはないけど。

それ以前に何かが映ることすらない。

なぜなら俺がバッテリーを抜いているから。


「柊也っ………柊也はいるか……」


第一声に俺の名前を呼んでこの部室に来る奴がいるとは珍しい。

ドアの方へと目線を向けると、体を支えるように柱に手をつけ、少し俯いたまま此方を見る姿があった。

一体どういう状況なのかわからない。

つい数十分前まではいつもと変わらない様子で教室で別れたというのに。


「どうしたんだ?奏十」

「仁に駄目だと言われてたがもう限界だ…無理だ……俺らを助けてくれ、柊也…」

「全く意味がわからねぇけどめんどくさいことなら嫌だ」

「俺らを救えるのはお前だけなんだよ…あとめんどくさいことじゃねぇから頼む。なんならこの場にいる全員来てくれ」


やって来たのは俺と同じクラスの保坂 奏十(ホサカ カナト)。

生徒会で書記をやっている。

そんな奏十が依頼をしてくるとは…。

俺と悠は顔を見合わせ首を傾げる。

めんどくさいことじゃないというのは本当かはわからないが…

仁に駄目だと言われていた?

奏十達を救えるのは俺だけ?

なんならこの場にいる全員に来てほしい?

駄目だ。さっぱりわからない。