佳代ちゃんは時計を見ると、腕を組んだ。
「今日はあと3回ぐらいは練習出来ますね。あとは明日練習して明後日は本番…千聖、上崎先輩は?」
「先輩なら歩香ちゃんのところに行ってるー」
千聖ちゃんが指をさした方へと目を向けると、上崎くんと歩香ちゃん、そして佐野ちゃんの姿が見えた。
歩香ちゃんは前に依頼をしに来た子で、佐野ちゃんは数回会って話をしたことがある子。
私は悠くんが「佐野」と呼んでいるから名前を知っているだけで、佐野ちゃんはなぜか私の名前を知っていたんだよね。
「2人も家庭科部なの?」
「歩香ちゃんは家庭科部ですけど、もう1人の子は知らないですね。多分、歩香ちゃんの友達かな」
「この時期は家庭科部以外もたくさん来ますから」
「浅井さん、あの2人と知り合いなんか?」
「うん。ちょっとだけ」
そっか。歩香ちゃんと佐野ちゃんが友達だから、佐野ちゃんは私の名前を知ってたのかな。
少しだけ気になっていたけど、それなら納得だ。
「上崎せんぱーい。話終わったらこっち来てくださーい」
佳代ちゃんの呼びかけに上崎くんは振り向き、歩香ちゃんと佐野ちゃんは此方を向く。
目が合い、私に気付いたのか軽く会釈をしてくれた。
そういえば歩香ちゃんの好きな人は悠くんで。
悠くんが好きなのは私だったわけだ。
歩香ちゃんが依頼をして来た時は知らなかったとは言え…少し気まずい。
上崎くんは話が終わったらしく、此方へとやって来た。
「どうした?」
「明日からは姫路先輩も上崎先輩もいるんでしたよね?」
「ああ。部員以外も結構人が来るだろうからな。それで?」
「提案がありまして。浅井さんのことで」
佳代ちゃんの提案は私が作っている間、佳代ちゃん、中西くん、上崎くん、姫路くんの4人でローテーションをして見守るということだ。
1人が付っきりは難しいけど4人のローテーションなら大丈夫だろう、と。
私の料理の下手さのせいで4人に迷惑をかけて非常に申し訳ない。
「本当はあたしが付っきりでもいいんですけど、もう1人厄介な子の面倒があるので」
「えー?誰だれ?」
「千聖。あんたに決まってんでしょ」
「えっ私かー!じゃ、静音先輩一緒に佳代のスパルタレッスン頑張りましょうねー!」
「う、うん。頑張ろうね」
スパルタという言葉に引っ掛かりながらも、こうして練習が始まった。