数十分後。

涙をハンカチで拭き、顔を見せた凪さんは目元は赤く腫れているが、いつも通り無表情の凪さんに戻っていた。


「私も静音様にお会い出来て心から良かったと思います。…あの時逃げ出して日本に来たから、静音様にお会いすることが出来たんですよね」

「うんっ!そうだよ」


私の笑顔に返事をしてくれているように微笑んでくれた。

凪さんが私に向けて笑った顔を見せるのはこれで二度目だ。

やっぱり凪さんの笑顔は同性の私でも見惚れてしまうほど綺麗だ。

凪さんはお鍋の蓋を取り、味見をする。

どうやらもう仕事モードへと切り替えたらしい。早い。

…そうだ。まだ話の本題は解決していないんだった。


「凪さん。それで…その……もう一回だけ聞くけど、お仕事とか会う資格とか、そんなの全部なしにして。凪さん自身は一くんといつきくんに会ってくれる?」

「…………」


やはり、すぐには答えられないようだ。

もうこれが最後の質問。「会うことができない」と言われれば諦めよう。

一くんには悪いけど…。

胸の辺りをぎゅっと握り、真っ直ぐな目で此方を見た。


「…はい、お会いします。いえ、お会いしたいです」

「凪さん…!」

「とても大事な人に背中を押されたのですから」