秋人くんが思わず「おいで」って言われて疑う事なくついていってたけど、
段々考えるごとに不安に駆られてきた。
変なところに連れて行かれやしないかと冷や汗が出てきた。



「ね…今どこに向かってるの?」
「だからぁ~、俺の働いてる店。これも何かの縁だし、ちょっと連れてきたかったし」



それがどこで何を営んでいる店かは教えてくれないんだ。
歩く足取りもだんだん重くなる。
やっぱりネカフェの方が安全だったかも…。

気付けば先ほどまで煌びやかな街中の光景が
心なしかだんだん人目から離れた薄暗い路地裏に誘導されてる気がする。



「ねえ……ご、ごめんなさいっやっぱり私」
「え?なに?疲れた??もうこの突き当りまっすぐだから。ほら見えた」



秋人くんが指を差すその先に見えたのは、
小さな彩のいいネオンに照らされた
たくさんの観葉植物が飾られた、おしゃれなバー。
ドアへ招くように小さな小道になっている。

秋人くんは傍の看板の照明を落とし、
玄関につるされていたOPENの板を裏返し、CLOSEに変えた。
え?勝手に閉店にしちゃってるけどいいの?

そしてそぉっと玄関に駆け寄ると中を覗き、
何かを確認するとなんのためらいもなく、出入り口のドアを開け放った。
少し古びたドアの軋む音とともに、涼しげな鈴の音が鳴った。



「たっだいまー。面白いお客つれてきたよーん」
「いらっしゃ………」



薄暗い店内のカウンターにいた男が、グラスを拭きながら挨拶をかけた。
目があった瞬間、私は不覚にも足をぴたりと止めてしまった。

透き通るような肌に、涼しげな瞳、整った顔立ち、
サラサラと滑り落ちるような明るい茶髪に、
着崩すことなくきちっと着込んだYシャツ。

息を呑むほど、中性的で、カッコイイ。

だけど、その男は私の恰好を一時見下ろした後
歓迎ムードとは言い難い鋭い瞳で私を見ていた。
確実にこちらを見て睨んでいる。

その反応に、急に肩身が狭くなる。