「実はさ。家出中…なの」




思い切ってそう零してみた。
するとその一言に、秋人くんは面白おかしそうに笑ってポリポリ頭をかいた。
…信じてないな、この人。まるで子供扱いだ。




「女の子独り歩きやめた方がいいよ?物騒だかんね。さっきみたいなやつらもいるし」




さり気に心配もされているし。
確かに彼は夜が物騒だという事を、身をもって証明しているので、なにも言えない。
だけど、帰りたくない。

ぎゅっとスクールカバンのひもを握り締める。
自分にも言い聞かせるように言った。




「帰りたくない。あんな家……」




すると秋人くんは一時真面目な顔で私を黙ったまま見つめていた。
そしてやっと真剣に捉えてくれたようで、困ったように聞く。



「行く宛てあんの?」
「ない…」
「金は?」
「…ちょっとしかない」



「なら帰れ」って言われるのがオチだ、こんなの。
こんな見ず知らずの人からも、どうせ呆れてるんだろうな。
口を尖らせて黙り込んでいると、秋人くんが背中を向けた。
あぁ、やっぱ呆れてる。



「じゃあ、とりあえず飯もおごるって約束したし、ついて来る?」



思わず顔をあげた。
さっきと同じような子供みたいな笑顔に、目を見開く。


「…どこに?」
「オレが働いてる場所」