耳元に当てた携帯を離し、画面を覗く。
時刻は既に20時を回ろうとしていた。
再び携帯を耳に当てる。



「…慶介さん来る予定だったし、たぶんもう手紙に気付いてる頃かも」
「……大事になっても知らないよー。私」
「とりあえず綾ちゃん、私の事は内緒にしといてね。居場所聞かれても知らないって」
「いいけど…明日から学校どうすんの?」
「わかんない。明日決める」
「とりあえず今から何処向かうの?」
「……ネカフェ」




一時、間をおいて答えたその言葉に綾ちゃんは「呆れた」と一言返した。
眉を顰めて強気に言い返す。



「いいの!安上がりだし!黙っといてね!」
「はいはい。連絡はちゃんとしてよ。心配だから」
「ありがと。じゃあね」




電話を切ると、あたりが暗くなっている事にようやく気付く。
歩道橋から見下ろす街並みは車のライトや街灯の照明で煌びやかだった。




「わぁ……夜なのに明るーい。綺麗…」



呑気にその光に見とれて、いつもとは違う光景に胸が鳴った。

いつもなら部屋の中にこもって
家庭教師の慶介さんとマンツーマンで勉強している時間帯だ。
夜のこんな明るさ、私は知らないし見た事ない。




ママはきっと仕事でまだ家には帰っていない。
慶介さんは、置手紙に気付いてるはずだ。

ママに連絡したのかな。
それとも慶介さん心配して探してるかな。




茫然と夜に浮かび上がるいくつもの光を眺め、
歩道橋の手すりに頬杖をついて息を零した。

…これからどうしよう。