現実からのちょっとした逃避行。ちょっとした好奇心。
とかそんな可愛いもんじゃなくて。
これは、本気で家から逃げ出したくて行った事だ。



「とか大げさに言ってるけど親とケンカしちゃっただけでしょ?」
「う……」



泣きついて電話した親友の綾ちゃんからは呆れた一言が返った。
私はガクっと頭を凭れさせた。
確かに他人から見れば些細な出来事だ。



だけど広い家に常に独りでいて
親の言いつけを必ず守っていた私にとって
結構大それた決心と行動だと思うわけだよ、綾ちゃん。




「んで、今どこ?」
「市街の歩道橋をブラブラしてる…」
「もう暗いしさ。今日は一旦帰りなよ」
「帰りたくないから電話したのにぃ…」
「…生憎うちさぁ、お兄ちゃんの婚約者が家泊りにきてんだよね」
「……見捨てられた」
「ごめん」




話の通り、家出は衝動的なものだから何もかもが無計画。
だから今も学生服のまま、
スクールバックに教材と2,3泊分の着替えとお菓子を詰め込んで
宛てのひとつである綾ちゃんに頼りつくも
ただいまあっさり見捨てられたとこだ。





「ほかに宛てあるの?」
「ない…」
「じゃあもう家に―――」
「帰んない!大見栄きって置手紙してきたし」




更に呆れたようにため息を零す綾ちゃん。

私のやってる事、間違ってるのかな。
でも、毎日続く縛られた生活はもう嫌。
何かが変わらない限り、あの家にはいたくない。