「高校生?」




重たい空気を割いて、やっと一言口を開く。
だけど明らかに「入ってくんな」と言いたげな目。
…どうしよう。

だけどその反応に驚く事もなく秋人くんの方は
カウンターの男を無視してくるっと私に振り返った。



「なっちゃん、ここが俺の働き場所。2階はいくつか部屋があって、俺の家もそこなの」



話によると一階がお店エリアになっていて、
二階はシェアルームになってるようだ。
勝手にあだ名までつけて楽しそうにカウンター越しの椅子に座り込み話し続ける。
だけどその後ろであの鋭い視線が刺さってるんですけど~!
怖すぎて普通に聞いていられない。



「なんで学生なんか連れてきた」
「さっき出会ったの。俺を助けてくれた正義のヒーロー」
「また喧嘩したのかよ」
「俺は何にもやってねえし。殴られ損よ」



切れた口端を指さし、むくれた顔をさせる秋人くんに、
バーテンダーの男はため息をこぼした。



「お前が生意気に突っかかるからだろうが。軽薄な態度が悪い」
「それ相手にもなっちゃんにも言われた」
「問題だけは起こすなって冬真さんからも言われてんだろ」
「わーっかってるよ」




2人の言い合いにどうしていいかわからず顔を落とすと、
秋人くんが気付いて隣の席をポンポンと叩いて「おいで」と言った。

だけど目の前の男の人の鋭い視線が怖くて、固まっていると秋人くんがおかしそうに笑った。





「ほーら。春のせいでなっちゃん怯えてんじゃーん」
「俺のせいじゃなくて、この子学生だろうが。問題になったらどうすんだよ」
「大丈夫って。看板の照明落としたし、板裏返しといたから」
「勝手な事すんなよ。それに責任負うのは冬真さんだっつうの」



さっき閉店にさせたのはそういう理由か。
でも、バーテンダーの男は訝し気な顔を見せている。



「なっちゃん行く宛てないらしいから、とりあえず連れてきた」
「は?」
「……えっと……」



秋人くんがさらっと私の家出を口にし、
目の前の春と呼ばれた男性は表情を固めた。

すっごくドン引きしてる…。
やめてぇ…無邪気に関係ない人どんどん巻き込んでいくの。
秋人くんが喧嘩に巻き込まれる理由が、今やっとわかった気がする。

そんな秋人くんの呑気な表情を鋭く睨み付ける。
「だからといって連れてくるな」って言葉は、目を見ればわかる。

私、明らかに場違いだよね?
付いていく人、来るところ、完全に間違えた。