蓮さんは、え?というようにわたしを見つめている。


わたしも訳が分からず蓮さんを見つめ返す。


「えっ、だって悠は網膜色素変性症っていう病気なんでしょ?だから、あんなに苦しんでいるんでしょ?今は夜盲症っていう段階で…、」


「…悠のバカっ…。」


蓮さんの悪態に顔を上げる。


「悠は…本当にっ…バカだよ。」


「どういうことですかっ、?」


わたしは蓮さんを見つめる。


「違うんですか…?」


悠。


悠がわからないよ。


その笑顔の奥、教えてよ。



蓮さんは浅く震えるように息を吐いた。


「間違っては…ないよ。」


「じゃあっ、!」


「穂花ちゃん。」


蓮さんの押し殺したような声にかき消される。


「その病気のこと、ちゃんと詳しく調べた?」


「え…?」


美菜ちゃんの言っていることを全て鵜呑みにしてわたしは、調べようなんて思いもしなかった。

でもそれよりも、知るのが怖かったっていうのが一番の理由かもしれない。


「網膜色素変性症は、すごく進行がゆっくりな病気なんだよ?」


「え…、はい。だから十年後って…。」


「だからそんな早くないんだって!」


「えっ?」


ますます困惑するわたし。


蓮さんは高ぶる感情を抑えるようにゆっくりと息を吸う。


「この病気の進行はすごく遅いんだ。悠みたいに幼少期に発症して、40代頃に視力を失ってしまう例もある。だけど、それはすごく、すごく重病な例なんだ。だから、十年後、20代後半に失明する、なんていうのはありえないんだよ!」


蓮さんの言っている意味がわからずわたしは息をするのも忘れて蓮さんを見つめた。


「高齢になってもある程度の視力を維持できている場合も少なくはないんだ。発病しない場合もあるってこと。それに、もし失明するんだとしても、それは高齢になってからの話だ。今からビクビクしているような問題じゃない。」


「えっ…。」


混乱してこめかみを押さえる。