「?」

矢吹くんに手を引かれ立ち上がると、地面に付いた左手のひらに多少の痛みのような違和感を感じ手を広げると、手のひらに嫌な色が目に入った。


「っ!?」


(ダメだ…今ここで…気持ちを泳がしたら)


矢吹くんに血がだめな事がバレているけどこれ以上見られたくない。


だけど、一度血を見てしまった視界に感情と裏腹に体は血に大きく反応して静まる事がなかった。


「はあはあ…はあ」



(ダメだ、気持ち悪い…)


また、嘔吐してしまう。


でも、ここは外でほとんど誰も通らないと言っても、そんな事出来ない。


「うっ」


吐きそうになり口を抑えたその瞬間、突然、体がふわっと傾き顔に柔らかくて硬い暖かい物が当たった。


「えっ」


「大丈夫?」


「矢吹…くん?」


一瞬、何が起きているのか理解が出来なかったけど、すぐに理解したのだった。


私は今、矢吹くんに抱きしめられていた事に。


「あ、あの…」


「まだ、気持ち悪い?」


「えっ…」


突然抱きしめられた事で気づいたのだが、いつの間にか血に対する気持ち悪さがなくなっていた。


「あれ?」


「平気?」


「う、うん」


おかしい。


いつもならこんなすぐに治まる事などなかったのに、なぜ?


体が離れると矢吹くんはそのまま、私の左手首を優しく掴み、自分の方へと持っていった。


「や、矢吹くん?」


「目瞑っておいた方がいいよ、血嫌なんでしょ?」


「う、うん」


言われた通りに目を瞑ると、矢吹くんは私の手のひらに何かをしていると動作を感じた。


(つ、冷たい…)


何をしているのかは分からなかったけど、でも血が目に入るから目を開けることは出来なかった。


「もう、いいよ」


しばらくして、矢吹くんの声に閉じていた瞳を開け左手の平を見ると、ケガしていた場所に絆創膏が貼ってあった。


「…絆創膏」


「昔からの癖でね、念の為に水の入ったスプレーと絆創膏を持ち歩くようにしているんだ」


(癖?)


それって、お父さんの事が関係あるって事だろうか?


でも、深くは追求せず「そうなんだ」という相槌だけで何も言うことはしなかった。



「どうして?」


「えっ」


「くるなちゃんから詳しくは聞いてないんでしょ?」


私がどうして血がダメなのか、理由など聞いていない筈なのに、矢吹くん自身の自分の事も冷めているのに、私の事を助けてくれるなんて。


「うーん、まあ。確かに詳しい事は何も知らないよ。
でも、嫌なものは嫌なんでしょ? 俺とは違うんでしょ?」


「矢吹くん…」


「ほら、帰ろう。あっつ」


そう言って、矢吹くんは踵を返し歩き始め、私はその後を追ったのだった。