「ただ、なんでそう思ったのか分からなくて、自然にそう思っただけなの」


「…………」


矢吹くんにとっては、そんな曖昧な感情でもダメだって思ってしまのだろうか。


「自然…って何? 自然に思う事なの?
仲良くなりたい感情って…そんなの変だよ」


変なのかな、変な事なのかな、そんなに。


おかしい事だろうか…。


「おかしいのかな? 矢吹くんがおかしいんじゃあ」


「そりゃあ他の人からすれば、それが普通なんだと思うよ。でも、俺はその考えがおかしいんだよ。
自分でもおかしいって分かってるよ。君は普通の事を思っただけなんだから」


「………」


やはりそうなんだ、私が変じゃなくて、矢吹くんがおかしいんだ。


だったら、どうしたらいいんだろうか。


どうすれば、矢吹くんは興味を持ってくれるんだろう。


どうすれば……。


「どうすればいのか」と考え込んでいたら、矢吹くんがぽつりと漏らす。


「別に何かしようだなんて思わなくていいよ」


「!」


「俺なんかさ気にしなくていいんだよ、そんな必要ないんだから。ねっ?」


気にされてもどうしようもないという表情だ。


もう矢吹くんにとっては直るものじゃないから諦めているんだ。


(でも、そんなの…)


「悲しい……」


「……」


「…悲しい? 悲しくなんかないよ、俺」


そういう意味で言った言葉じゃない。


矢吹くん自身の心に゛悲しい゛という気持ちがないのはよく分かってる。


「そういう事じゃなくて、矢吹くん自身の心が悲しいんじゃなくて、矢吹くんの中にある心が悲しいって思ったの」


「心?」


「矢吹くんの事はあんまり分かんないよ。
まだ出会ったまなしだから何か言えるとかないけど、矢吹くんの心はとても悲しそうに見える」


私の言った言葉にこれも響く事など絶対にないんだろう。


決して何一つとしてないんだ。


「心か……確かにそうかもね」


「へっ」


驚く事に私の言った言葉に矢吹くんは反応してきた。



「君は変な子だね」


そう言いながら、矢吹くんは私に近寄りそっと頭に触れる。


それはまるで、お気に入りのぬいぐるみや大好きなペットの猫や犬を撫でるみたいに優しい手付きだった。


「矢吹くん?」


「本当に変な子。普通さ、こういう時って無視したり避けたりするんじゃない? いつもならこういう事しないんだったら、いつも通り近寄らなきゃ良かったじゃん。本当に…なんで」


それは、私もわからないと言っても理解をくれないんだと思う。


本当に何でなんだろう……。