(はあ…はあ…はあ)


少し呼吸が緩くなった感じがするけど、もう少し落ち着かせないと。


「こ、ことはちゃんっ大丈夫?」


「!」


端でしゃがみこみながら下を向いたまま落ち着かせていたら、柔らかい落ち着いた声が降ってきた。


そっと顔をあげると、目の前に矢吹くんが心配そうな顔で立っていた。


「や、矢吹くん…」


「どうしたの?
こんな所でしゃがみ込んで、大丈夫?」


優しい声だ。


この前はあんなにも冷たい声音だったのに。


そういや、あれ以来矢吹くんと話すの久々だ。


「大丈夫…。
思いっきり走って息切れしちゃっただけだから」


「そうなんだ」


思いっきり走ったからってしゃがみ込む程の息切れなど普通はおかしいって思っているのだろう。


おそらくこの事はくるなちゃんからは聞いていないのだろう。


詳しくは聞いていないと言っていたから。


だから、血が苦手以外は聞いていないのだろう。



「どうして、ここに?」


おばあちゃんの家近くとは言えまだ距離はあるはずなのに、よく私の存在に気付いたものだと思った。


「えっ ああ、見えてたから」


「…あ、そうなんだ」


だから、気付いてくれたんだ。


おそらく誰かがしゃがみ込んでいて、近寄ったら私だったって事なんだろう。



しばらくして、息切れも落ち着いたのでゆっくりと立ち上がった。


「もう、平気なの?」


「うん、大丈夫。ありがとう」


矢吹くんは私が落ち着くまで側にいてくれた。


「普段はすごく優しいのにな」と思いながら矢吹くんの顔をチラっと見る。


「?」


「ううん、なんでも」


矢吹くんのいつもと変わらない表情に、なんとなく悲しかったりもしたけど、矢吹くんはこういう人だから仕方ないと諦めに入った。


でも、矢吹くんへ感じた感情はしっかりと伝えなきゃと心に思ったのだった。


(明日、ちゃんと言おう)


おそらく否定するような言葉を掛けてくるだろうけど、せめて自分の気持ちだけでも伝えないと思う。


どうなるかは予想はだいたい付いてるけど…。



その夜、お風呂から上がり就寝の準備を終えた後、自分の部屋に入りベットに仰向けになって倒れた。


「……はあ」


仰向けになりながら矢吹くんの事を考えていた。


「明日、言えるかな…」


普段は本当に優しい矢吹くんだけど、彼が持っている心の感情を言うと、あまりにも冷たくて冷えきってて空っぽで、少し怖い感じがする。


だから、ほんの少し伝えるのに緊張がある。


おそらく矢吹くんの奥底の感情を知るには時間が掛かるのだろう。


「ううん、言わないとダメなんだろう」


決意を持って言ったところでベットから体を起こし、ぎゅっと掌を軽く握り閉める。



「゛言わないとダメ゛か……」



確かに自分の事も言わないとダメなのも事実だ。


でも、私の場合、矢吹くんのようの簡単に言えたらどんなに楽で安泰か。


だけど、誰か言った時にどんな反応するのかそれも怖くて仕方ない。


それは、おそらく事例があるからかもしれない。


だから、誰かに言う事にこんなにも躊躇があるのだろう。