「そこまで気を遣う程のものなの?
うっとうしいだけでしょ?」


「うっとうしいって…。
矢吹くんは誰に対しても言うの?」


「聞かれたら言うけど、それで変に思ったり偏見を思うなら勝手に思っておけばいい話でしょ? そこに何の感情を持つ訳ないんだから」


矢吹くんの口から出てくるもの、全てが全て耳を疑うものばかりでこれ以上は聞きたくないぐらいだった。


「矢吹くんは人の感情って気になったりしないの?」


「興味のない人間の感情を気にしても仕方ないでしょ」


「でも、気になる人とか好きな人とかに、自分の事情話して゛変に思われないかな゛とか゛嫌われたりしないかな゛とか思った事ない? 私はそういうのまだないからあれだけど、柚里夏ちゃん以外の友達に私の事情言えた事ないの。だってそれでもし嫌われたら嫌じゃない?
それが怖くて言えないのに…」


由冬ちゃんに本当の事を言って嫌われたりはしないと思うけど、でも気を遣われるのは事実だと思う。


私の事情で気を遣われのも嫌で、そしたら周りが変な事言われそうで、それもまた怖いと感じているのに。


「……ないよそんなの」


矢吹くんは「ふっ」と苦笑いしながら呆れた表情で答える。


「ある訳ないでしょ。他人に興味なんか持った事ないのに。そんなのどうでもいいし、興味持ちたいと思わないよ」


「えっ」


「興味を持てるのは、愛情を向けてくれた人だけ。
それもちゃんと理解してくれた人だけ」


そう言うと、矢吹くんは膝を立てながら立ち上がり、膝を使いながらそっと近寄ってくる。



「ちょ…な、何!」


矢吹くんの顔が触れるか触れない距離まで近付かれ、覆いかぶさるかのような体制で、耳元で柔らかく透き通った声で囁かれる。


「この家の人もそう、灯良さんは多少たりともあるけど。君もそう、ことはちゃんにも全く興味がないんだよね」


「…っ!?」


そう言うと、矢吹くんはそっと耳元から離れ、離れる際に向けられた瞳は虚しい程に色合わせていなかった。


彼の瞳には色というものが入っていないんだ。


だから、人に興味を持てないんだ…。


「……っ」



「どうかした?」


なんとも思いもしない一言に、かあっと顔が赤くなりばっと立ち上がり、今にも泣きそうになる瞳で「そんなのおかしいよ!」と放ち部屋から逃げるかのように出た。


「……っ」


分かっていた事だけど、出て行く私に矢吹くんは決して追うことはなかった。