矢吹くんの事情を聞いて、彼に対して失言してからは何かと彼から避けるようになっていた。


「はあ……」


(だめだな、私…)


どうしても矢吹くんの感情に理解できなくて理解できなくて、どう言えばいいのかも分からず戸惑いを持ってしまっている。


「うう……」


(でも、まあ)


こんな感情持ってしまうのは、すべて私の感情が弱いせいなのだろうな。


普段の私は基本明るいけど、昔の私と比べたら暗い方で、思い詰めたらどんどん可からぬ方向に行ってしまって自分が見失いそうになる。



「ことはちゃん」


「!」


考え事していたらいつの間にか矢吹くんが近くに来ていた。


いきなり近くに来られて思わずビクっとなる。


2日程避けていたから、いきなり近距離は困る。


「何してるのキッチンで?」


「えっと、甘い物欲しくなったから作ってたの」


「へーお菓子作り好きなんだ」


「うん。もうすぐ出来ると思うけど」


昔から甘い物が大好きで中学になった頃からお菓子作りをするようになって、気が付いたら趣味になっていた。


「ところで矢吹くんは何しに来たの?」


「ああ、喉渇いたから水取りに来たんだけど」


「ああ、そうなんだ。じゃあコップ渡すね」


そう言ってコップが置いてある場所に近寄り、ひとつコップを手に取り矢吹くんに手渡す。


と、渡す際に矢吹くんの指が一瞬当たり思わずビクっと感じ持っていたコップから手を離してしまった。


矢吹くんはまだしっかりキャッチしていなかったせいかコップを真っ逆さまに床へとガチャンと音を立てて割れガラスがバラバラになってしまった。


(やってしまった……)


「あちゃあ…」


「ごめんなさいっ怪我とかない?」


「それは大丈夫。ことはちゃんも平気?」


「う、うん」


(コップ割っちゃった、どうしよう)


「とりあえず、掃除しないと」


そう言って矢吹くんはガラスの破片を集めようと触れる。


「あっ」


「どうかした?」


「先が尖ってたから指切っちゃって血が出た」


「えっ……」


その単語を聞いた瞬間、脳が激しく揺さぶら体が勝手に後ずさりしていた。


「……っ!」


「絆創膏どこにあるかな?」


脳に恐怖心を煽られこびり付いた記憶が蘇るかのように手足が震えて、矢吹くんの声が拾い取れない。


「ことはちゃん?」


私の異様な態度の疑問を持つ矢吹くんはそっと声を掛けてくる。



「あら、どうしたの?」


すると、矢吹くんの声にようやくしておばあちゃんが顔を覗かせた。


「あ、すいません。コップ落としちゃって」


「えっあらあら大丈夫?
ちょっと掃除機持ってくるね」


「あ、はい」


そう言っておばあちゃんはまたキッチンから離れた。