部屋の中は夏なのに僅かな冷たい空気が流れる。


膝の上の置いている手のひらをぐっと握り返し矢吹くんの方に視線を向ける。


「矢吹くんは…悲しくないの?」


「………別に」


分かっていた反応に私は思わず落胆する。


彼に何を言っても何を思っても同じような反応しかない。


それは分かってるけど、でも……。


「私は悲しい…よぉ」


「えっ」


いつの間にかポツリと呟きを漏らした私に矢吹くんは目を丸くして私を見る。


「なんで君が悲しむの? そんな必要ないよね?」


「それは…」


どのようにして答えたらいいのか分からず黙り込んでしまう。



《コンコン》


と、その時、部屋の外から軽くノックが聞こえてきた。


《ガチャ》


「矢吹くん、お昼ごはん食べるよね?
できたから降りておいでーあら? ことはちゃん」


矢吹くんの部屋に訪れにきたのはおばあちゃんで、昼食のお誘いのようだった。


「おばあちゃん…」


扉の方を微かの振り向き蚊の鳴くような声で名前をつぶやく。


「ことはちゃんもおいで、ごはん出来たから」


「……うん」


おばあちゃんは私が矢吹くんの部屋にいた事に特に疑問を思う事なく、そのまま1階へと戻っていった。


「…っ」


私は何も言わず無言のまま立ち上がりゆらゆらと矢吹くんの部屋を出て階段へと向かった。


そんな不安定な態度に矢吹くんは後ろから怪訝そうに見つめていた。