「でもね、俺はあの家族に父親や妹に対してどうも思ってないんだよ」


矢吹くんはしれっと他人事のような言い方をする。


「別に最初から崩壊していようが、虐待されようが、捨てようが、別にどうも感じないしどうも思ってない。
父親がどんなに俺をおまけやおもちゃのような扱いや人としての扱いをしていても、どうでもいいし興味ないんだよね。だってそれが俺の運命だって事、しょうがないって思ってるんだよね。他人に可哀想や惨めな感情を向けられても、うっとうしいだけなんだよね」


「………っ」


なんでそういう考えになるのだろう?


おじいちゃんとの話しをたまたま聞いてしまった時もおじいちゃんから話しを聞いた時も今矢吹くんが話した事も全てが変だと思った。


お父さんに嫌われて虐待されていたとしても崩壊した家族だとしても成り行きで家族になったとしても、もっと自分に愛情や感情を持つべきじゃないのだろうか?


なのに、なんで矢吹くんは諦めをついた感情を持っているのだろう?


なんで…?


「どう…して?」


「ん?」


ぐっと苦しみまじりの感情が心に露になり掃き溜めのように出てくる。


「なんで、そんな事いうの? 矢吹くんは今ここでこうして生きてるのに、どうして自分自信の思いを持とうとしないの? そんなのまるで…まるで、自我の持たない小さな子供やロボットみたい…」


言ってはならない一言を言ってしまい、思わずはっと口を抑えるが、矢吹くんはなんとも思わない表情のままクスっと笑みを一瞬見せた。


それは、まるで何かを企んでいるかのようなにやりとした笑みだった。


(や、矢吹くん…?)


「そうだよ、その通りかもね」


「えっ」


「俺はロボットとか個体物に近いのかもね」


否定する事なくむしろ肯定したのだった。


なんで?